農哲副読本 農から学ぶ「私」の見つけ方(9)
4.あるがままの自分
○夢を実現する
そうはいっても自分がどの方向に向かって進んでいるのかがわからないと不安です。自分の夢を実現する方法を考えてみましょう。
まずはなりたい自分を描きます。この時、「なりたい自分=あるがままの自分」であるかどうかはわかりません。でもこの段階では気にする必要がありません。自信がないから決められないという人もいます。でも決めることが大切です。決めれば進むべき方向や今取り組むべき行動が見えてきます。そして最初の一歩を踏み出します。行動に移さないとわからないことがいっぱいあります。行動して間違ったと気付けば直せばいいだけです。
プランニング(計画づくり)では、なりたい自分をビジョンと呼びます。そして次にシナリオを描けと教わります。シナリオとは、ビジョン(ゴール)に向かって進むべき道筋のことです。組織など複数の人間で仕事をする場合はこのシナリオは必要ですが、個人の人生においてはシナリオを描く必要はありません。シナリオは思考によって創られます。思考にコントロールされ、あなたは思考が描く道しか進むことができません。人間の可能性は思考を超えたところにあります。進むべき道筋は多数あります。どの道を進むべきは自分を信じて委ねるのです。
またビジョン(なりたい自分)も、進むべき方向とそちらに向かって最初の一歩を踏み出すために必要ですが、実際に動き始めたら「なりたい自分」も手放し(忘れ)ましょう。いつまでもゴールを意識していると、今がおろそかになるとともに、次になすべき行動の選択で間違います。「なりたい自分」の正体は未来という名の思考なのです。
自分(の内面)と向き合い、今に意識を集中し、今なすべきことをやりきります。
私たちにできることはこれしかなく、これが全てです。
次のことが不安になるかも知れませんが、それは今に集中できていない証拠です。不安という波を起こしている正体を探りましょう。その正体がわかり、そちらの方が重要と感じたら、今なすべきことをそちらに切り替えればいいのです。
人は実際に行動に移すことで、Rさんはメッセージ(感情)を発してくれます。車のナビは車を動かすまで何も反応してくれません。車が動き出すとナビも動きます。そしてあなたが動き出したら、Rさんからのメッセージを受け取りながら必要に応じて修正を加えていきます。そして今なすべきことをやりきったら、次になすべきことが自動的に目の前に現れてきます。これはとれも不思議ですが必ずそうなります。それを信じて今に集中し続けましょう。そして最終的にはワクワク感が内面から自然に湧き上がってくる状態を目指します。すると、当初思い描いた「なりたい自分」は既に達成されているか、そのはるか先を進んでいることに気づきます。
さてワクワク感ですが、仲の良い友達と遊んでいるときや大好きなカラオケを歌っているときなどに感じる「楽しい」感覚とは違います。この感覚はその行動が終わるとともに消えていきますが、内面から湧き上がるワクワク感はいつまでも余韻として続きます。美味しさには舌の刺激によって脳が判断する美味しさと細胞が喜ぶ美味しさがあると述べました。この両者の違いと同類です。そしてこの本物のワクワク感を感じることができる自分になることが、本当のゴールです。
○待つ
今なすべきことをやりきった。そしてそれを続けている。でも自分は一向に変わらない。そういう不安に襲われる方もいると思います。
今なすべきことをやりきったら、あとは天に委ねましょう、と述べました。そして変わらなければ「このままでいいよ」と思いましょう、とも述べました。でも、変わりたいと思う気持ちも大切です。変わるために「待つ」お話をします。
美味しいみかんのお話をしました。そのためにあるがままのみかん作りを目指していますが、様々な農作業を行った後、最後のポイントとなるのが「待つ」ことです。みかんなどの果物は、木成で完熟させると一番美味しい状態となります。ですから収穫時期をギリギリのタイミングまで見定めて収穫します。時期が多少遅くなってもそれほど問題はありませんが、早く収穫してしまうとその実は未熟で持っているもののすべてを出し切ることができません。
ところで慣行農で栽培したみかんは、「待つ」ことができません。ギリギリまで収穫を待つと、浮皮などの果皮障害や過熟して腐りやすくなるといった被害が出ます。ですから早目の収穫を行い出荷します。
慣行農のみかんがなぜ待てないかというと、栄養素のバランスが崩れているからです。バランスが崩れているとどこかに被害が出やすくなります。ちなみに収穫してすぐ出荷するみかんならバランスの崩れはそれほど気になりませんが、収穫してから1~2か月貯蔵してから出荷する「蔵出しみかん」は、貯蔵中にみかんを腐らせてしまうと話にならないので、できる限り腐りにくいみかんづくりに心がけます。肥料を工夫したり液肥を散布したりといった取り組みによって栄養素のバランスを整えていくのですが、それでも限界がありみかんを腐らせてしまいます。しかし自然農のみかんはほとんど腐りません(生傷等がついていると腐ります)。栄養素のバランスが崩れた行先は「腐る」のです。
今なすべきことをし続けても自分に変化が現れないときは、焦らず待つことが大切です。行動と結果の間には「熟す」ための時間差が生まれることがあります。待つことは何もしないということではなく、今なすべきことの行動(選択枝)のひとつなのです。
実はあるがままの自分になるということは、「なりたい自分」へと自分を変化させることではありません。形として表に現れる変化にはあまり意味はないのです。あなたの内面が変化することこそが重要です。「待てない自分」から「待てる自分」に変わることこそがあるがままの自分になることです。今なすべきことをしたからといってその結果に意味はありません。「すべての結果を受け入れる」という自分になったとき、あなたは既にあるがままの自分になっています。
今なすべきことをし続けても結果が現れないことに不安を抱くとき、あなたの内面のバランスがまだ整っていないことを教えてくれています。ですからもう一度内面のバランスを整えることに意識を集中させましょう。基本動作に立ち戻ることが結局一番の早道となります。焦ることはありません。ひとつひとつの行動の積み重ねが、あなたの内面を確実に変えていってくれます。
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